干上がるサバンナで命をつなぐ卵生メダカ・ノソブランキウス

プラティ・卵胎生メダカ
プラティ・卵胎生メダカ

こんにちは、スズキです。
前回の記事では、食料不足や低温、乾燥といった過酷な環境を乾燥状態で乗り切る休眠卵について触れました。休眠卵を産む生き物として、ブラインシュリンプやミジンコ、カブトエビやホウネンエビが知られています。

これだけ見るとなんだか休眠卵を産むのは小さな生き物や甲殻類という印象でしょうか。
いいえ、実は魚の世界にもいるんです。卵生メダカ、ノソブランキウスを例に見てみましょう。

卵生メダカとは

そもそも卵生メダカとはなんでしょうか。
分類上でいうと……

日本のメダカ=ダツ目
グッピー、卵生メダカ=カダヤシ目

というように、メダカと名乗っていても日本のメダカとは異なります。

卵生メダカは主にアフリカや南米のジャングルやサバンナに生息し、大きさは5cm前後と小型種が中心です。個性的な色彩や柄を持ち、その美しさで世界中のアクアリストを魅了していますが、それには次のような背景が深く関わっています。

卵生メダカは同じ種類でも採集された場所によって色彩の異なるタイプが存在し、高いコレクション性があります。そのため、採集された年、場所、採集者によってロケーションナンバーと呼ばれるものが付き(付かないものもいます)、キレイなタイプのロケーションナンバーは高い人気を誇ります。

また、休眠卵の状態で輸送できるため、安価な海外郵便(EMS)などで簡単にやり取りできるのも卵生メダカならでは。インターネットが普及する以前から「文通」を通して世界中の愛好家がお互いに交換や販売していたことで、世界中に卵生メダカ愛好家がいるというわけです。

卵生メダカは寿命も特徴的で、グループによって半年から一年程度の「年魚」、数年間生きるとされる「非年魚」がいます。

卵生メダカの一例

アフィオセミオンバイビテイタム フンゲ
別名:アフィオセミオン・バイビテイタム・スプレンドプリューア?
クロマフィオセミオン・スプレンドプリューア?
(Aphyosemion bivittatum?)
(Aphyosemion splendopleure?)
(Chromahyosemion bivittatum?)
(Chromahyosemion splendopleure?)
アウストロレビアスニグリピニス
別名:シンプソニクス・ニグリピニス
シノレビアス・ニグリピニス
スモールアルゼンチンパールフィッシュ
(Austrolebias nigripinnis
(Cynolebias nigripinnis))
スワロー・キリー イスラ ラトン
別名:テラナタス・ドリコプテルス
(Trigonectes dolichopterus)

ノソブランキウスについて

では、本題のノソブランキウスについてを見ていきましょう。

ノソブランキウス ラコビー
(Nothobranchius rachovii)

ノソブランキウスは卵生メダカの代表的なグループのひとつで、モザンビークを中心とする東アフリカのサバンナに生息しています。

サイズは6cm程度と小型です。メスはやや地味な印象の一方、オスの美しさは格別で「泳ぐ宝石」にもたとえられるほど。優雅になびく水草レイアウトに泳がせると大変美しい水景を表現できます。

ノソブランキウスは年魚で、自然下での寿命は1年程度しかありません。飼育下であれば水温を低くすることで成熟を遅め、1年以上飼育を楽しむことが可能です。

魚なのになぜ休眠卵を産むの?

ノソブランキウスは魚でありながら休眠卵を産む特徴があります。
それはなぜでしょうか。

休眠卵は、過酷な環境でも次の世代を残すための生存戦略です。
厚い殻に覆われていることで過酷な環境を乗り越え、環境が良くなればいつでもふ化できます。

ここから察するに、ノソブランキウスの生息環境にヒントがありそうですね。
ノソブランキウスが生息しているのは東アフリカのサバンナです。
サバンナとは熱帯・亜熱帯地方に見られる草原で、一年の間に雨季と乾季がある気候が特徴です。

サバンナの雨季イメージ
サバンナの乾季イメージ

雨季になると草原をうるおしますが、気温が高く降水量が圧倒的に少ない乾季になると、草原は枯れて小川や池も干上がってしまいます。
そんな環境に生きるノソブランキウスは、雨の恵みを受けて土の中からふ化し、わずかな期間で成長すると乾季が来るまでに産卵します。乾季が訪れて小川や池が干上がるとノソブランキウスは死んでしまいますが、土の中に産み付けられた休眠卵なら長い乾季を乗り越えることができるというわけです。

なお、サバンナについて以前はアフリカのみを指していましたが、最近ではアフリカに限定しません。
同じく南米のサバンナ地帯にすむ卵生メダカもノソブランキウスと同様に休眠卵を産みます。

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ノソブランキウスの飼育について

ノソブランキウスラコビー アルビノ
(Nothobranchius rachovii var.)

過酷な環境に生きるノソブランキウスですが、飼育自体は難しくはありません。熱帯魚飼育の基礎を押さえていれば飼育でき、繁殖にも挑戦しやすいです。水質の悪化に弱く、病気を発症しやすい点に注意してください。

幅広い水質(弱酸性~弱アルカリ性)、比較的幅広い水温(20~28℃)に適応が可能です。
水温が高いと成熟が早まります。自然下での寿命は1年ほどですが、23℃前後の水温を低くして成熟を遅らせることで1年以上飼育を楽しむことができます。

ノソブランキウスの飼育に必要なアイテムがすべてそろった
飼育セットが便利です。


ノソブランキウス飼育セット

扱いやすい30cm水槽とフィルター、LEDライト、水温計、カルキ抜き、エサ、底砂がセットになっています。

ノソブランキウスを繁殖させてみよう

卵生メダカの繁殖の中でもノソブランキウスは特殊な産卵形態で知られています。そんなノソブランキウスの産卵に適したセットがこちらです。

十分に成熟したペアはピートモスを4~5cmほど入れたグラス容器などを水槽内に入れておくと定期的に産卵をします。採卵後のピートモスは卵がついたままの状態で軽く絞り、新聞などにくるんでビニールに入れておきます。

25℃程度の温度で一定期間休眠(ラコビーの場合は90日)させ、卵に稚魚の目の部分が見えたら、少量の飼育水とともに容器に入れ激しく振ります。その後、ピートモスと卵をプラケース等に出すと1~2日程度で稚魚がふ化します。

休眠期間について
・種類によって必要な休眠期間は30~120日と異なります。
・休眠期間が長い種は飼育難易度がやや高くなります(ラコビーは中級)。

ノソブランキウスを集めてみよう

ノソブランキウスの繁殖方法までわかったところで、代表種から珍種までご紹介します。
ペアなら小型水槽で飼育できるため、コレクションしやすい点も魅力ですね。

まずは代表種からです。

ギュンテリー(別名:ガンサアイ、ガンサーアイ)

タンザニア、ザンジバル島原産。ノソブランキウスの中でも古くから知られ、ポピュラーな品種として挙げられます。飼育、繁殖は容易で、産卵数が多く稚魚の成長も早いため初心者でも十分楽しめるでしょう。卵の休眠期は60~90日程度です。

ノソブランキウス・ギュンテリー ザンジバル
(Nothobranchius guentheri “ZANZIBAR”)
ノソブランキウス・ギュンテリー ブルー
別名:ノソブランキウス・ギュンテリー“フジミー”
(Nothobranchius guentheri “Blue”)
ノソブランキウス・ギュンテリー ゴールド(Nothobranchius guentheri “Gold”)

エッゲルシー(別名:エガーサイ)

タンザニア原産。鮮やかな赤とメタリックなブルーが非常に美しい種です。赤味のある部分の多い“ルフィジリバー”、ブルーの部分の面積が多い“ルホイ”の2タイプのロケーションが有名です。飼育はノソブランキウスの中でも難しく、水質の悪化に弱いので注意が必要です。卵の休眠期は60~90日程度です。

ノソブランキウス・エッゲルシー ルフィジリバー(Nothobranchius eggersi “Rufiji River”)
ノソブランキウス・エッゲルシー ブルー(Nothobranchius eggersi “Blue”)
ノソブランキウス・エッゲルシー ソリッドブルー(Nothobranchius eggersi “Solid Blue”)

パトリザイ(別名:パトリジィ)

ソマリア原産。ノソブランキウスの中でも大きな背ビレを持ち、やや小型の種です。ブルーの体色に真っ赤な尾ビレの対比が美しく、尾ビレの黄色い改良品種も知られます。飼育、繁殖は容易で、産卵数が多く稚魚の成長も早いため初心者でも十分楽しめるでしょう。卵の休眠期は60~90日程度です。

ノソブランキウス・パトリザイ(Nothobranchius patrizzi)

コルサウサエ(別名:コーソザイ)

タンザニア、マフィア島原産。イエロー、レッドの2タイプが知られ、ノソブランキウスの中でも際立つ鮮やかさを持ちます。特にイエロータイプは黄色い体色にエンジの縞模様のヒレという色彩パターンがユニーク。飼育はノソブランキウスの中でも容易で、水に慣れてしまえばあまり水質にはうるさくない魚ですが、導入時には注意が必要です。卵の休眠期は60~90日程度です。

ノソブランキウス・コルサウサエ イエロー(Nothobranchius korthausae “Yellow”)
ノソブランキウス・コルサウサエ レッド(Nothobranchius korthausae “Red”)


続いて面白枠ともいうべき珍種をご紹介します。

フンデュロソーマ・サイエリィ(別名:ノソブランキウス・サイエリィ、フンデュロソマ・サイエリィ、フンデュロソマ・セリアイ)

ジンバブエ原産。ノソブランキウスに似た色彩、体型を持つグループでもっとも小型の種で最大でも2.5cm程度にしかなりません。以前はよく似た形質を持つことからノソブランキウス属とされていましたが、現在では1属1種のフンデュロソーマ属に分類されています。水に慣れてしまえばあまり水質にはうるさくない魚ですが、導入時には注意が必要です。本種は半年魚で、乾燥処理する場合の休眠期間は60日程度、水中でふ化させることも可能なようです。

フンデュロソーマ・サイエリィ アダ(Fundulosoma thierryi “Ada”
(Nothobranchius thierryi “Ada”))

フルゼリー(別名:ファーザアイ)

ジンバブエ原産。ノソブランキウスの中でもやや大きくなる種で、その美しさからノソブランキウスの最高峰とされています。全身のメタリックな色彩と細かな各ヒレの色彩が美しく、尾ビレの黒と黄色が特徴的です。ロケーションによってはこの尾ビレが赤単色のタイプも見られます。飼育はノソブランキウスの中でも難しく、水質の変化にも弱いです。卵の休眠期は90~180日程度です。大型になるノソブランキウスは短命で、休眠期が長く、稚魚が小さいことから飼育難易度は非常に高くなります。

ノソブランキウス・フルゼリー マムジメチョペスリバーMOZ 04-13
(Nothobranchius furzeri “Mamzimechopes River MOZ 04‐13” )
ノソブランキウス・フルゼリー
(Nothobranchius furzeri )

まとめ

魚なのに休眠卵を産むノソブランキウス。
とても過酷な環境に生きているからこそ、休眠卵は命をつなぐための手段というわけですね。
美しい体色といい、コレクションのしやすさも魅力的です。

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