水辺の花としておなじみのスイレンたち。
ところがその全容と詳細は意外と知られていないところがあります。
今回はそのスイレンの仲間たちについて大まかに紹介していきましょう。
スイレンの仲間
ひと口にスイレンと言ってもさまざまな種類がいます。
原種スイレンから交配された園芸品種まで膨大な数が存在するため、日本で流通のある種類を中心に紹介しましょう。
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【温帯性スイレン】スイレンといえばこれ!
主にNymphaea亜属の原種とその交配種からなるグループ。
名前のとおり原種は北半球の温帯に広く分布するため、交配品種も寒さに強く本州以南では越冬の準備などは必要ありません。
多くの名品種たちが20世紀を代表するアメリカの園芸家ペリー・ディーン・スローカム氏の手によって作出されました。
「ぺリーズ」の名がつく品種はスローカム氏にちなみます。
球根を作る熱帯性スイレンとは異なり、コウホネのような横に這う根茎を伸ばします。
栽培容器のサイズによっては根詰まりを起こす可能性が高まるので1~2年に一度は植え替えを行いましょう。
【熱帯性スイレン】エキゾチックな魅力が満載!
主に赤道付近の熱帯地域原産の種類とその交配種を指します。
進化の系統樹上ではスイレン目で最も新しい時代に分かれたグループでもあります。
花の作りがシャープなものが多く、温帯性スイレンにない青い花色の品種もあるのが特徴です。
名前のとおり寒さに弱いため、日本では越冬ができません。
秋口の冷え込む(気温が10℃を下回る)時期が来る前に室内に取り込んで越冬させる準備が必要になります。
根茎を伸ばすのではなく球根を作る品種が多いので、ポット植えにして睡蓮鉢に沈める育て方をすると移動が楽になるのでおすすめです。
水草として流通するニムファは、熱帯性スイレンのグループに含まれるものが多くあります。
これらを睡蓮鉢で育ててみても楽しいですよ!
【姫スイレン】コンパクトに楽しめる
育てられることから人気が高い種類です
温帯性スイレンの仲間から小型の形質を持ったもの同士を交配し、選抜した品種を姫スイレンと呼びます。
他のスイレンほど大きくならず、直径20cmほどの小型容器でも育てられます。
性質も温帯性スイレンに準じて越冬も難しくありません。はじめてスイレンを育てるという方にもおすすめです。
姫スイレンも温帯性スイレン同様に日本の環境に定着してしまいます。野外への植栽は絶対に行わないでください。
3種類があります
【ヒツジグサ】日本の水辺のかわいいやつ
学名:Nymphaea tetragona
(カナ読み:ニムファエア テトラゴナ)
本州以南では唯一の在来原種スイレン。
分類上では温帯性スイレンに含まれます。
一部の姫スイレンにも種親として交配に使われるほど小型なのが特徴。
山間の腐植質の豊富なため池に自生していることが多いのですが、アメリカザリガニの影響や園芸スイレンの植栽などで生息地が圧迫されて数を減らしています。
日本国内でも産地が北に行くほど葉が大きくなり、南に行くほどより小型になるという形質が確認されています。
特に小型でかわいい印象があります
窓辺で楽しむこともできます
北海道にはもう1種類の在来原種スイレンがいます。
その名もエゾベニヒツジグサ。
姿はやや葉の大きめなヒツジグサといった感じですが、違う点は「花の中心部(柱頭)と雄しべが赤く染まる」ところ。
ヒツジグサに一筋の紅をさしたような魅力的な花を咲かせます。
また、東北~北海道のヒツジグサを「エゾノヒツジグサ」とする論もあります。
【コウホネの仲間】スイレン科で最も古い形質を残す存在
柱頭盤など一部が赤くなる種類もいます
一般的なスイレンが含まれるNymphaea属とは異なるNuphar(カナ読みで「ヌファール」)属の仲間です。
スイレン科の中でも原始的な特徴を残しているグループで、花の作りにもそれが見てとれます。
日本にも数多くの種類が自生しており、その形態はさまざま。
流れのある川から高地の湖、平地の沼など多様な環境に適応した姿をしています。
抽水葉を出す種類と丸葉の種類は止水(睡蓮鉢)で育てることが可能です。
「河骨(コウホネ)」と名付けられました
長くなる傾向があります
多くなります
ナガバコウホネ
【黄花】
サイコクヒメコウホネ
【黄花】
ベニコウホネ
【黄花】
コウホネ
【黄花】
斑入りコウホネ
【黄花】
中国ヒメコウホネ(流通名)
【黄花】
ベニオグラコウホネ
【柱頭盤赤】
オゼコウホネ
【柱頭盤赤】
【オニバスとオオオニバス】デカい!とにかくデカい!
「鬼蓮(オニバス)」と呼ばれるように
学名: Euryale ferox
(カナ読み:エウリアレ フェロックス)
熱帯アジアから日本まで広い地域に分布しています。
スイレン科の中でも巨大な草体になりながら「一年草」であることが最大の特徴です。
そのため、継続した育成には毎年種を取る必要があります。
日本では生息地が失われて絶滅寸前ですが、種子には休眠性があり、「元々湿地や沼地だった場所」で工事などがあると水たまりで発芽したものが稀に発見されることがあります。
オオオニバスは名前も姿もオニバスと似ているところがありますが、Victoria属と違うグループ(3種が存在)になります。
種子が流通しますが、育成はオニバスと同じで問題ありません。
ただ、サイズがさらに大きくなるためビニールプールや池があったほうがより楽しめるかと思います。
オオオニバスは多年生の性質を持ちますが、ほとんど一年草といってもいいくらい寿命が短い草です。
越冬させるには温室が必要になるため、一年草として扱ったほうが維持管理はしやすくなります。
意外にオニバスより小さめです
【その他のスイレンの仲間たち】まだまだいるよ
他にアクアリウムルートで熱帯原産のバルクラヤ(バークレア)の仲間が稀に流通することがあります。
ニムファの仲間では浮葉を出さないラビットイヤーやヒツジグサとほぼ同サイズのサンタレン・ドワーフニムファを睡蓮鉢で育てるのもおすすめですよ!
さらにまだ見ぬ種類としてはバークレア・ロンギフォリアに似た姿をしたオーストラリアのオンディネアなどもいます。
温帯性スイレンと熱帯性スイレンともに原種は流通が少ないので、そういった種類を集めても面白いかと思います。
バルクラヤ クンストレリやモトレイなども稀に流通します
えっ、コレも!? 意外なスイレンの仲間たち
ジュンサイとカボンバの仲間を含むハゴロモモ(ジュンサイ)科はスイレン目に属しています。
スイレン目は被子植物としては系統のかなり古いグループで、白亜紀末期にはハゴロモモ科とスイレン科は分かれていたようです。
食用としてのジュンサイ、金魚藻としてなじみのあるカボンバが恐竜がまだ闊歩していた時代の原始的な被子植物の形質を残しているというのはなんとも興味深くロマンのある話ですよね。
【ジュンサイ】つるっとおいしいやつ
学名:Brasenia schreberi
(カナ読み:ブラセニア シュレベリィ)
食用になる水草としてもお馴染みのジュンサイ。
自生地は山間の腐植質豊富なため池などで、ヒツジグサと同居していることも多いです。
育成する場合は用土に長繊維ピートモスやけと土を混ぜて腐植質を多めに供給し、水質が弱酸性を保つようにします。
食用となる新芽部分のゼリーはガラクトマンナンやフコースなどの複数の多糖類から構成されたものとなっています。
原始的な特徴なのだそうです
存在感を放ちます
似たような環境を好みます
【カボンバの仲間】実は古代草
睡蓮鉢ではこれらも楽しめます
属名:Cabomba
南米~北米南部を原産とするグループ。
現生のカボンバは6種が確認されています。
このうち金魚藻としてなじみ深いのはカロリニアーナ種。
変種の存在や地域ごとに形質が分かれやすいため、文献によって記載種の数が変わるなど、分類には議論が分かれるようです。
それだけに実はコレクション性の高いグループでもあります。
たかがカボンバと侮るなかれ。
初期スイレン科の姿を想像されられます
立派なスイレンの仲間です
実はいろいろな種類がいたりします
カボンバ カロリニアーナ
Cabomba caroliniana
レッドカボンバ
Cabomba furcata
イエローカボンバ
Cabomba aquatica
カロリニアーナの改良品種
カボンバ シルバーグリーン
過去チャームに入荷があったが現在は見られないカボンバ達
パンタナルグリーンカボンバ
パンタナルレッドカボンバ
スリランカ便ロージーカボンバ
ロージーカボンバ
【ドーンレッド】スイレン目 最古の系統
「ドーンレッド」と名付けられました
学名:Trithuria lanterna
(カナ読み:トリトゥリア ランテルナ)
オーストラリア原産、ヒダテラ科の植物。
アクアリウムでは当初ホシクサの仲間と思われていました。
ヒダテラ科は分類においても長らくイネ目と思われていましたが、近年の詳細なDNA解析の結果、スイレン目で最も古い時代に分かれた系統であることが判明したという衝撃的な経歴のグループです。
小型な植物のため睡蓮鉢より小型容器が向いています。
水草用ソイルに植えて明るい窓辺に置いて育てましょう。
一見スイレンの系統には見えません
(ホシクサ)
花を上げた姿はホシクサに近い雰囲気
(花は姫スイレン)
根本が水に浸かるように管理しましょう
まとめ
今回はスイレンの仲間について、チャームで取り扱いがあるものを中心に紹介してみました。
膨大な品種とさまざまな形態を持った原種が存在し、幅広い楽しみ方のできるグループです。
野外への植栽など注意しなければならない面もありますが、性質を知って要点を押さえれば難しいことはありません。
その草のことをきちんと知って節度を守って楽しむ。
これが大切です。
人間が地球上に誕生するよりも遥かに昔から水辺に存在し、人の歴史と文化にも深く関わってきたロマンあふれる水辺の華を楽しんでみませんか?
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