種?品種?亜種?正しく使い分けよう

生き物系
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どうも、ほにゃらら sp.です。
今回は熱帯魚で「種」「品種」「亜種」の正しい使い分けについて紹介したいと思います。

では、まずはそれぞれの言葉の定義を見てみましょう。

「種」とは

種とは、生物の分類において最も基本となる単位です。
分類学的な基準に基づき、「他の個体と明確に区別可能な個体の集団」を指します。

原則、分類学者によって定められます。

ネオンテトラ、グッピー、プラティ・・・それぞれで一つずつの「種」です。
種が記載されると、学名が与えられます。

学名の基本的な読み方

生物の学名は基本的に二名法で表現されます。
例えばネオンテトラであれば Paracheirodon innesi

このうちParacheirodon属名innesi種小名を表しています。

属名も種小名も一致していれば同種、属名だけ一致なら近縁種と考えてOKです。
未記載種や不明種の場合、種小名が付けられないので代わりにsp. がつきます。(speciesの意)

(筆者のハンドルネーム「ほにゃらら sp.」のsp.はここから来ています。属がほにゃららと不明であり、種小名もsp.となると、もはや一体何者なのでしょうか。)

繁殖は基本的に同種のみで行うことができ、種が異なれば繁殖を行うことは通常できません。
近縁種の場合、中には繁殖できる組み合わせも稀にありますが、その場合でも通常は1代限りとなり、2代3代と続くことは普通はありません。

ネオンテトラ
グッピー
(ブルーグラス・グッピー)
プラティ
(ホワイトミッキーマウス・プラティ)

人工的に改良が加えられた魚でなければ、「基本的には」全ての観賞魚の販売単位は「種」となります。

例えば、ここで紹介したネオンテトラは野生下のものと色彩が変わりません。
一方で、グッピーやプラティは野生下のものとは大きく色彩が異なります。
ここで紹介している「ブルーグラス・グッピー」や「ホワイトミッキーマウス・プラティ」は人工的に作出された「品種」です。

グッピー(野生型)

野生のグッピーは改良されたグッピーとは色形が大きく異なります。
普段よく目にする鮮やかでひらひらと泳ぐグッピーの色形は、野生のグッピーから生じた突然変異個体を元に、長い年月をかけて人工飼育環境で選別交配を行い、固定化したものです。

ところで、実はチャームの商品検索は、学名での検索にも対応しています。(100%ではありませんが・・・)

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「品種」とは

「人工的に改良が加えられ、その形質が固定化された個体の集団」を指します。
「改良品種」ともいいます。

「品種」は原則、その作出者によって定められます。

野生下では通常存在しない表現型を持ち、人工飼育下で選別交配がなされたものは全て品種です。
ごくまれにアルビノなどの色彩変異個体が野生下で発見されることがありますが、これは人工飼育下で選別交配がなされたものではありません。
したがって、この場合は品種ではなく「突然変異個体」と表現するのが適切でしょう。

アクアリウムにおいては専ら観賞目的に改良されるため、改良元となった種が元来持つ形質よりも、見た目が華やかになるよう選別交配されることがほとんどです。
また、この改良元となった種、および野生型の表現型を持つ個体を指して、品種に対し「原種」と呼ぶことがあります。
改良品種に関しては、学名表記の最後にvar.を付けます。これは英語でvariety(変種)の意です。
業界によってこの表現は変わり、この記載法はアクアリウム業界特有なようです。

例:グッピーの各種改良品種の学名表記
Poecilia reticulata var.

熱帯魚においては、一部のグループでは改良元となった野生型がほとんど流通せず、専ら改良品種が流通するグループがあります。
特に、「グッピー」「プラティ」はその代表で、今日目にする個体はほぼすべてが何らかの改良品種です。野生型の個体は流通はわずかです。

一方で改良がほとんど行われていないグループもあります。

コリドラス・アークアタス
タイガープレコ
バタフライ・レインボー

コリドラスやプレコ、レインボーフィッシュなどではあまり改良が進んでおらず、流通するのは大部分が野生型の表現を持つ個体です。
これらのグループではそもそも養殖技術が確立されていないもの、確立されていても改良の元になる突然変異個体がまだ発見されていないものなど、改良が進まない何かしらの理由があります。

コリドラス・アエネウス(赤コリドラス)
アルビノ・コリドラス・アエネウス(白コリドラス)

一部、アエネウスなどの養殖が確立されている種類に関しては、白コリドラスに代表される「アルビノ」や、「ロングフィン」などの品種がバリエーションとして流通することもあります。
しかし、グッピーやプラティほどバラエティに富んでいるわけではありません。

変種とは

観賞魚ではあまり用いられず、専ら植物や水草で用いられる表現です。
植物学において変種とは、「同種内において他の変種とは区別されるものの、異なる変種間で交雑が可能なもの」を指します。
人工栽培下での選別されたものであるかどうかは、関係がありません。

つまり、定義としては亜種に非常に近い区分です。
植物学においては亜種を認めない考えもあるようで、その場合に変種が亜種の定義を含む形になります。しかし、学名表記は品種と同じく、種小名の次にvar. を付けます。

本来のvar.の付け方としてはこちらが正となるようです。
アクアリウム業界における改良品種の学名にvar.を付ける表記法は、植物学の概念に由来するものと思われます。

品種の確立ってすっごく大変!

「品種」の定義を振り返ってみましょう。

「人工的に改良が加えられ、その形質が固定化された個体の集団」ですね。

“その形質が固定化された” ここが重要です。
変わった表現型を持っていたとしても、その個体1代限りでは固定化されていないので品種とは呼びません。

2代、3代と代を重ねていき、その変わった表現型が一定以上の確率で子孫に受け継がれるようになって初めて「品種」と呼ばれるようになります。(ただし、種ごとの遺伝様式によって例外はあります。)

この累代を重ねて変わった表現型の遺伝率を上げる作業を「固定化」と呼び、そのための親個体の選別は非常に重要で大変な作業です。
遺伝させる形質とその遺伝率によっては、2代3代程度では固定化できず、10代以上重ねなければならないこともあるでしょう。大変な根気と年月のかかる作業になります。

今日、改良品種として流通する華やかな熱帯魚は、その昔に数々の苦労を乗り越えた努力の結晶が流通していると考えると、また見方が変わってくると思います。

アルビノ・〇〇 として安価に販売される熱帯魚は数多くいますが、その裏にはさまざまなドラマがあるのです!
もしかすると、ドキュメンタリー番組を1本作れるくらいのドラマがあるものも、いるかもしれません。

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「亜種」とは

分類学的な基準に基づき、別種として区別できるほど大きな差異が認められるわけではないものの、「同一種内である程度の識別可能な差異が認められる個体の集団」を指します。

「亜種」は原則、分類学者によって定められます。

たまに、改良品種であるアルビノやゴールデン、ロングフィンなどのタイプを指して、
「〇〇の亜種だよね」という表現をすることがありますが、この用法は厳密には正確でありません。

すべての種に亜種が存在するわけではなく、一部の種において「別種とするほどでもないが、種内で区別できる微妙な差異がある」集団が存在する場合に亜種として区分されます。

また、学名表記は通常「属名+種小名」の二名法ですが、亜種の場合は種小名の後に亜種名が付きます。
基亜種は、種小名を2回重ねます。この表記を三名法といいます。

「ある種の亜種であることは間違いないが、未記載となり名前が付けられない場合」には、記載されるまでの間ssp.またはsubsp.が付けられます。

観賞魚に見られる例としては、「タイリクバラタナゴ」「ニッポンバラタナゴ」がその関係に当たります。

タイリクバラタナゴ
Rhodeus ocellatus ocellatus
ニッポンバラタナゴ
Rhodeus ocellatus kurumeus

タイリクバラタナゴ Rhodeus ocellatus ocellatus が基亜種 ocellatus亜種
ニッポンバラタナゴ Rhodeus ocellatus kurumeus はその亜種の一つ、kurumeus亜種

タイリクバラタナゴの場合、「タイリクバラタナゴ」が基亜種となります。原名亜種とも呼ばれます。
種としてはどちらもRhodeus ocellatusであり、その中で細分化する形です。
基亜種とは複数ある亜種のうち、最初に発見された基準となるものを指しています。
基亜種の場合、亜種名は種小名を重ねます。

基亜種が「原種」と呼ばれることがありますが、この用法も厳密には正確ではありません。
また、基亜種は必ずしも進化の系統上、祖先的であるとは限りません。

この2亜種は外観も非常によく似ており、外観のみでの識別は非常に困難です。
有孔側線鱗と腹ビレの白線で区別可能であり、最高潮に達した婚姻色の表現ではニッポンバラタナゴのほうが赤みが強いといわれます。
しかし、色味はコンディションによって変わるためあまり当てになりません。

このため、熟達した目利きのプロでも外観のみで100%正確に識別するのは困難です。
ただし、遺伝子で見ると明瞭に違いがあるようです。

種が異なれば通常、繁殖は成立しません。
ところが亜種の場合は、種としてはどちらも同じRhodeus ocellatus であるため、繁殖が成立してしまいます。
本来分布域を異にする組み合わせである場合、自然界で交雑が生じることは絶対にありませんが、人間による放流からこの関係が破壊され、交雑が生じてしまいます。

タイリクバラタナゴの本来の分布域は中国大陸であり、ニッポンバラタナゴは日本固有種です。
本来は分布域を異にしていますが、人為的な放流によりタイリクバラタナゴは全国に拡散し、ニッポンバラタナゴはいまや絶滅寸前です。
現在残っている個体も、その大部分は交雑個体であるといわれています。
固有種を保護する上で交雑問題は極めて厄介です。
どの魚種でも言えることですが放流は絶対にしてはなりません。
ニッポンバラタナゴの放流もダメです。

自宅の水槽で楽しむ分には全く問題ありませんので、水槽内で観賞を楽しむようにしましょう。
いかなる理由があろうと放流してはいけません。

分布域が重ならずに亜種関係にある魚種の場合、多くは地域固有の何かしら識別できる表現型を持っていることが多いでしょう。
観賞魚としてみる場合は、その微妙な表現の差異に魅力を見出します。
産地にこだわりがあるタイプの魚種に関しては、この亜種の概念が関与していることが多いです。
また、亜種として区別するほど明確でもないが、ある一定の識別可能な差異が認められる場合には、「型」と表現されます。
研究が進むとこの型の違いが明確化され、亜種や種に格上げされることがあります。

「亜種」の表現は、観賞魚においては一部の魚種で使われる表現であり、全般に使われる表現ではありません。改良品種が持つ表現型に使うのは誤用であるという点を、認識しておくと良いでしょう。

バラタナゴ(種)Rodheus ocellatus
タイリクバラタナゴ(亜種) Rhodeus ocellatus ocellatus
タイリクバラタナゴ (原種)
タイリクバラタナゴ (野生型)
タイリクバラタナゴ 改良品種(品種)
アルビノイエロー
イエロー
カガミ鱗
ニッポンバラタナゴ(亜種)Rhodeus ocellatus kurumeus
ニッポンバラタナゴ

※青枠は分類学用語ですが、緑枠はアクアリウム用語です。


種?品種?亜種?まとめ

・・・生物の分類を考える上での基本単位です。

品種・・・ある種のうち、人工的に改良が加えられ、その形質が固定化された個体の集団を指します。

亜種・・・ある種のうち、分類学的な基準に基づいて別種として区別できるほど大きな差異が認められるわけではないものの、ある程度の識別可能な差異が認められる個体の集団を指します。

関連語

原種・・・品種の対義語で、改良が加えられていない野生型の表現を持つ個体の集団を指します。

基亜種・・・亜種のうち、一番最初に発見された基準となる亜種です。

原名亜種・・・基亜種と同じです。原種とは意味が異なります。

近縁種・・・別種ではあるものの、近い関係にある種を指します。科または属レベルで遺伝的に近ければ近縁といえますが、目レベル以上の差がある場合は普通、近縁とはいいません。

・・・亜種とするほど明確ではないが、識別可能な差異が認められる場合に型と呼びます。

突然変異個体・・・野生型とは異なる表現を持つ個体のうち、偶発的に発見されたもの。人工飼育下のものであっても、固定化されていなければ品種とは呼べません。

投稿者
ほにゃらら sp.

福島県産のワイルド個体。
ロカリティの詳細は残念ながら記録がない模様。
アクアリウム歴はだいたい20年くらい。
「同属内で多様なバリエーション」が好き。若干コレクター気味。
つまりコリドラスや、ミクロソリウムが最高。ということですね。

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