「ハスとスイレンの用土って何が良いんだろう?」
「何のために土を選ぶの?」
「どう選んだらいいの?」
「選ぶ基準がよくわからない」
という方のために今回は用土についてちょっと踏み込んだ内容で解説します。
何を重視すると良いんだろう?
ハスは水辺植物の中でもかなりの大型種になります。
大型になるということはどういうことか?
それは体を大きく成長させるための栄養と大量の肥料分が必要ということです。
そして、ハスが効率よく肥料分を吸収するには土の性質が大きく関わってきます。
用土の選択によって成長の度合いが左右されてしまうのです。

大型になる品種は人の背丈も超えることも
ハスやスイレンが大きく成長するには肥料分が豊富にあることが望ましいです。
といっても、実は単純に肥料分がたくさんあれば良いというわけではなく、これを効率よく植物が吸収できる形にする必要があることを覚えておいてください。
単体で使える用土
ハスを植え込むのにメインとなる用土選びについて。
実はここが花をたくさん楽しむために重要になってくる部分です。

ハスが花を咲かせるには十分な肥料分が必要です。
専用にブレンドされた用土であれば特別な配合は必要ありませんが、自分でブレンドする場合には用土の特徴を把握しておく必要があります。
ここでは簡単に用土の説明をしていきます。
お手軽に使える、おすすめの専用土
まず、用土には単体で使える土とブレンドが必要になる土の2種類があります。
「土なんてみんな同じじゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、実は成り立ちから性質までがそれぞれで大きく違ってくるのです。
そこの解説だけで記事が何本も書けてしまうほど長くなってしまうので、ここではちょっとした性質と使い方に絞って解説していきます。
まずは単体で使える土から。
特に何かをブレンドする必要もなく、お手軽&簡単に使える専用土です。
複数の用土をハスやスイレン、水生植物向けにブレンドした用土です。
主に赤玉土と粘土質の用土をベースに有機質や肥料分が加えられています。
最初から肥料分が入っているため、特別な施肥はなくても問題ありませんが、たくさん花を咲かせるにはリンを含んだ緩効性の固形肥料を追加してください。
ハス以外の水辺植物にも使えます。用土選びに迷ったら専用土を使いましょう。
似た名前の商品が複数存在しますが、全部が同じ比率のブレンドではありません。
商品ごとに使用している用土や配合が変わるので、パッケージを見比べてみるのもおもしろいかと思います。
通称「荒木田土」とも呼ばれる、文字通り田んぼの土です。
重い粘土質で保肥力が高く、肥料分を多く要求するハスにもってこいの性質を持っています。
ハス育成に使う場合は田土単用でも全く問題はありません。
花をたくさん咲かせることを重視するなら肥料分が不足する場合もあるので固形肥料をプラスして使用します。
他の用土と組み合わせる際のベースとしても活躍しますよ。
焼成されていないため、採取地に生えていた水生植物が芽生えてくることがあります。
ガマやヨシといった背丈の大きい草、まれにホシクサなど珍しい水草が生えてくるなんてことも……。
どんな草が出てくるかは、そのときのお楽しみです。
上の3種類は単体での使用で追肥を行うだけでも問題ありません。
ブレンドが必要な用土
ここから先はブレンドして使う土についてです。
なぜブレンドするかというと、性質が一長一短に特化しているものが多いからです。
バランスの良い土にするためには、それぞれの短所を別の用土の長所で補ってあげる必要があります。
花をたくさん咲かせたいのであれば、ハスやスイレンが必要な肥料分を吸収しやすい組み合わせになるように用土をブレンドをします。
用土の性質を理解していれば、専用土が手に入らない状況になっても困りません。
さらに肥料の使い方も上手くなり、よりたくさんの花を咲かせることが出来るようになるでしょう。
用土をブレンドするために押さえておく重要なポイントは2つあります。
それは「保肥力」と「腐植質」です。
目的【保肥力追加とpH調整】
園芸用土としておなじみの土です。
メダカの育成やガーデンビオトープなどにも広く使われます。
主に次のような性質を持っています。
・陽イオン交換作用があり、水を軟水にして水草が育ちやすい水質に調整してくれる。
・鉄を多く含み、リン酸を強力に吸着(結合)する性質を持っている。
メダカ飼育で「ろ過能力が高い」といわれるのはこれらの性質が関与していることによります。
しかし、ハスの育成においては肥料分をほとんど含まない上に、リン酸をごっそり吸着する性質が逆に仇となってしまい、単独での使用は向いていません。
赤玉土は陽イオン交換量が高く保肥力のある土ですが、リン酸だけは吸着の仕組みが違います。

イメージ図
リン酸は赤玉土に含まれる鉄と化学的に強力な結合をしてしまい、こうなると簡単には引き剥がすことができません。
この状態のままでは植物がリン酸を利用できないのです。
鉄と結合したリン酸を引きはがして植物が利用できる状態にするには、後述の腐植質とそれから作られる有機酸が必要となります。
これらの理由から赤玉土単体でハスを育てること自体は可能ですが、リン酸が欠乏しやすいことで花上がりが悪くなってしまうのです。
そのため、赤玉土を使う場合は腐植質が豊富な用土と混ぜて使うようにしてください。
どちらかといえば「水質(pH)調整が主な目的」で、田土や他の用土に混ぜたり化粧土として用土の上に敷くなどの使い方が主になります。
※赤玉土に含まれる鉄にはリン酸固定をしてしまうデメリットがありますが
同時に土中に発生した硫化水素を吸着してくれるというメリットもあります。
粘土鉱物が持つ「保肥力」とは
肥料を活かすために必要なもの。
それは土の持つ「保肥力」です。
そして保肥力というのは一言で言うと「陽イオン交換量」のこと。

大雑把な陽イオン吸着イメージ
植物の三大栄養素(窒素、リン酸、カリウム)を肥料分と呼びますが、このうち窒素とカリウムは陽イオンに分類されます。
保肥力がある土というのは「窒素とカリウムを豊富に引き付けておく量が多い」ものです。
そして「陽イオン交換」という形から、別の物質(水素イオンなど)と交換する形で放出します。
この性質は火山灰由来の粘土鉱物に由来します。
粘土鉱物は分子が複雑で特殊な構造をしていて、それにより微弱な電荷を帯びています。
それによりイオン化した元素を引き付ける力があるのです。
その粘土鉱物を田土や赤玉土は豊富に含んでいます。
目的【腐植質と有機酸の供給】
苔玉を中心に最近ではパルダリウムの着生植物用にも使われる粘土状の黒い土。
その実態はヨシやマコモ、ガマなどの大型水生植物が枯れたあとに分解された有機質が中心となったもので、腐植質をたくさん含んでいるのが特徴です。
大量の腐植質を含んでいることから肥料の効きを良くする働きがあります。そのため、ハス育成には単体ではなく、田土や赤玉土にブレンドして有機質を含ませるといった使い方をします。
田土と同様に焼成処理されていないので、分解者にあたる微生物も豊富に含んでおり、セット後の立ち上がりを早くする効果もあります。
使用上の注意点として、練って粘土状になっても水に入れると少しずつ崩れて水を濁らせてしまいます。必ず他の用土に混ぜて使ってください。
園芸資材にもあるピートモスを細かく粉砕していないものです。

水に浮いて汚くなりにくいです

こちらもミズゴケやヨシなどの水生植物が分解されてできたものです。
産地による違いがありますが、「けと土」と比較すると分解が進んでおり、含まれる有機酸量が多くpHが低い傾向があります。
また、分解が進んでいる分、栄養分は少なめです。
けと土の代品として長繊維ピートモスを使っても問題ありません。
レイアウトを重視したガーデンビオトープを作る場合は土止めとして使うこともできます。
アイデア次第で用途は多岐にわたる便利アイテムでもあります。
乾燥させていることが多いため、けと土と違ってそのままでは水に沈みません。
重い土や石をかぶせて沈めたり、水を吸わせたりしてから使ってください。
セット後に水がブラックウォーター化する場合がありますが、植物への悪い影響はほとんどないため、そのままでも問題はありません。
腐植質と有機酸供給用としてはこの2種類が最も使いやすくおすすめです。
理由としては「水中で分解された植物体」であり、水に沈めても余計な腐敗が起こりにくいから。
水中は陸の地中とは違う環境なので、有機質であれば何でもいいわけではありません。
酸素がより不足しやすい分、土中が嫌気環境になり硫化水素なども発生しやすくなります。
そこで「水中で分解された植物体」というのが重要になるというわけです。
もうひとつの肥料分を活かすもの
肥料分を活かすために「保肥力」の他に必要な要素。
それが「腐植質」と「有機酸」です。
腐植質とは枯れた植物が微生物に分解されて作られた物質の総称です。
その分解の過程で有機酸も発生します。


(キレート)のイメージ
腐植質と有機酸には肥料分やミネラルと化学的に結びついて植物が吸収しやすい形にする役割があります。
そのなかで特筆すべき性質として「リンの効きを良くする」働きも持っているのです。(※鉄と強固に結びついたリンを引きはがす役目)
これを「キレート化」と呼びます。
これにより植物がリンを吸収できるようになり、たくさん花を咲かせることが可能になるのです。
いわゆる「豊かな土にする」というやつですね。
「森が海を育てる」という言葉にもこれらの現象が大きく関わっています。
この現象は、同時に肥料焼けを抑える働きもするのです。
ミネラル類は有機酸と結びついていない状態で過剰に存在すると植物に害を与えます。
土中でこの症状が現れた状態を「肥料焼け」といいます。
肥料分が植物に吸収されず土中に多く存在しすぎると、浸透圧により植物の根から水分を奪ってしまいます。これにより根がダメージを受けて細胞が破壊されてしまうのです。
単に肥料とミネラルをたくさん与えれば良いというわけではなく、「害の少ない吸収しやすい形にする」ことが重要になってきます。

この肥料分を活かすために重要な要素こそが「腐植質」と「有機酸」であるのです。

大雑把な説明ですが、だいたいこのようなサイクルで機能しています
ただ、腐植質は肥料分を豊富に含んでいるわけではないので別に施肥する必要があります。
あくまで肥料の効きを良くするためのものと覚えておいてください。
これらのポイントを押さえてもらえれば肥料をしっかり活かすことができるかと思います。
肥料についてはこちらの記事も併せてご覧ください。
他にもさまざまな用土がブレンド用に使えますが、使いやすいものとしてはこれらがおすすめです。
ブレンドする場合、施肥なしなら「田土7:けと土3」くらいの割合で。
施肥ありなら「田土5:赤玉土2:けと土3」くらいが良いでしょう。
この比率は厳密なものではなく、ある程度アバウトでも大丈夫です。
一部の原種スイレンには腐植質が多い環境を好むものがいます。
そういった種類にはけと土や長繊維ピートモスを多めにブレンドして使ってみてください。
ヒツジグサの自生地再現用のブレンドとして
「田土5:けと土5」
「田土3:赤玉土2:けと土3:長繊維ピートモス2」
と、腐植質たっぷりにすると自生地に近い水質を再現でき、
成長も良くなるのでおすすめですよ!

まとめ
ハスやスイレンがしっかり育ち花をたくさん上げられるようにするためには、肥料の効きを良くする用土をしっかり選ぶことにあります。
そのポイントは以下のとおりです。
・肥料分を土の中に蓄える「保肥力」のある用土を使う。
・「保肥力」を持った用土は火山性の粘土質鉱物からなる土。
・肥料とミネラルの効きを良くする「腐植質」と「有機酸」の豊富な用土を加える。
・「腐植質」と「有機酸」補充には水中で分解の進んだ「けと土」と「ピートモス」が有効。
このポイントを抑えるだけでもハスとスイレンの成長はぐんと良くなるかと思います。
ちなみにこれらのポイントを最初から備えた用土が「水草用ソイル」だったりします。
たくさんある園芸用土からブレンド用の土を選ぶときも、これらを重視してみてください。
ハスやスイレンの成長を見ながら自分だけのブレンドを追求するのも楽しいですよ!
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