ようこそ、ヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビの世界へ……
アクアリストであれば誰もがぶつかる壁といえばコケのお悩み。
普段は掃除する時間がなく、メンテの際に掃除するという方もいるでしょう。
ただし、流木や水草の間についたコケまでは人の手で取ることは難しいもの。そんなときに強い味方となるのが生体掃除屋さんです。プレコ、オトシン、貝類……etcがいますが、今回は彼ら以上に細かな作業をしてくれる淡水エビの代表格、ヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビをご紹介します。
生物学データ
ヤマトヌマエビ
学名:NCaridina multidentata 旧名:Caridina japonica
分類 | ヌマエビ科・ヒメヌマエビ亜科・ヒメヌマエビ属 |
体長 | 3~5cm |
食性 | 雑食 |
主な原産地 | マダガスカル・フィジー・日本 (インド太平洋沿岸 熱帯・亜熱帯地域) |
ヌマエビ科、ヒメヌマエビ属の淡水エビ。
日本産ヌマエビ類の中では大型の重量級です。別名「アマノシュリンプ」とも呼ばれ、高いコケ除去能力からアクアリストに大変人気があります。
メスよりオスの方が大きく、最大全長はオスが3~3、5cm、メスは4~5cmほどです。
流通は多い種ですが、ワイルド個体は川や海などの改修工事・水質の悪化によって減少傾向にあるようです。
ミナミヌマエビ
学名:Neocaridina denticulat
分類 | ヌマエビ科・ヒメヌマエビ亜科・カワリヌマエビ属 |
体長 | 2~3cm |
食性 | 雑食 |
主な原産地 | 西日本・朝鮮半島・中国・台湾 |
ヌマエビ科・カワリヌマエビ属の淡水エビ。
ヤマトヌマエビと比較すると2~3cmと小型で軽量級、身体が小さいため1匹のコケ除去能力はヤマトヌマエビに劣りますが、細かな水草や流木の隙間の掃除に力を発揮します。
日本にも生息しており、流れの緩やかな川や沼など広く分布しています。赤みや青みが強い個体から黒の模様が入るといったバリエーション豊富な面もあります。
ヤマトヌマエビもミナミヌマエビも「タンクメイト」として、コケの掃除だけでなく、熱帯魚などと混泳させて残餌の掃除役として活躍しています。どちらも安価で流通されているため、入手しやすいことも人気の理由のようです。
タンクメイトと呼ばれるまで…
ヤマトヌマエビ
古くから日本の河川に生息していた彼らですが、アクア界には1970年(昭和45年)ごろに参入しました。熱帯魚の飼育が一般的になったころですが、国内アクアリストの中ではすでにコケ取り生体としての需要があったのです。そこへネイチャーアクアリウムで有名な天野氏が、コケ取り生体として有用であることを海外に広めたことから、「アマノシュリンプ」との別名があります。
きれいな水質を好み、自然下では河川の中流~上流域に生息しています。最近は川や海の水質悪化や乱獲、ダムの建設などにより、野生個体は減少傾向にあるようです。
人気が高まってきた頃から国内ブリードも始まりました。ただ、両側回遊型で幼生期は汽水や海水域で成長し、変態を行ってから淡水へのぼるという両側回遊型の習性から、一般的にブリードも手間がかかるようです。
こちらは台湾産のヤマトヌマエビで、分類上は日本のヤマトヌマエビと同種になります。
ヤマトヌマエビと比較すると体長は小さく、小型の水槽にオススメです。
トロピカルシュリンプという別名を持ちます。
トゲナシヌマエビもヤマトヌマエビと近縁種になります。
体長の比較では、ヤマトヌマエビよりも小さく、トロピカルシュリンプよりは大きくなります。
淡水エビの中でも珍しく高水温に強いこと、コケ掃除もヤマトヌマエビと能力は互角です。
ミナミヌマエビ
ヤマトヌマエビと同じく日本(西日本の河川)にも生息しています。
国外では中国・台湾・朝鮮半島などに亜種が生息し、外国産亜種も日本で流通しています。
田んぼなど身近な場所におり、以前は釣り餌として利用されることもありました。
水槽内のコケ、水垢の掃除屋としての能力の高さからタンクメイトの地位を築き上げたようです。
繁殖能力が高く、改良品種が多く生まれています。今ではカラーバリエーションの豊富なチェリーシュリンプの素性といわれているように、ミナミヌマエビの中でも赤・青・黒・黄色、バンドの違いもあります。チェリーシュリンプ同様にカラーバリエーションを楽しめる種なのです。
ヤマトヌマエビもミナミヌマエビも今ではアクアリウムに欠かせない存在となりました。ペットとしてのエビ人気の火付け役ともいえます。
アルジーライムシュリンプという名の通りライムグリーンの薄い緑の体色や黄色が強い個体がいます。
中国南部のミナミヌマエビの近縁種ともいわれていますが詳細はわかっていません。
コケ食いも非常に良いのが特徴です。
チェリーシュリンプは台湾原産のミナミヌマエビの改良品種と言われ、日本のミナミヌマエビとは近縁種になります。
カラーバリエーションも豊富さ、繁殖能力の強さなどから多くのアクアリストを虜にしています。
カラーシュリンプという別名も持ちます。
こんな仲間もいるよ!
ヤマトヌマエビ仲間達
トゲナシヌマエビ
学名:Caridina typus
台湾・インド洋・西日本に生息。
ヤマトヌマエビより一回り小ぶりで2~3cm程のサイズですが、コケのお掃除屋としては負けていない種です。
トロピカルシュリンプ(台湾ヤマトヌマエビ)
学名:Caridina multidentata
旧名:Caridina japonica
台湾のヤマトヌマエビ。日本のヤマトヌマエビと同種で、サイズはやや小ぶりですが、体色や模様やコケ除去能力は同じです。
ヒメヌマエビ
学名:Caridina serratirostris
西日本・東南アジア・オーストラリア・マダガスカルに生息。
ヤマトヌマエビと同じ属になります。
体長は3cmほどで、縦ラインやバンド柄と2パターンあり、体色は茶褐色・赤・灰色とカラーバリエーションも豊富です。
リュウグウヒメエビ
学名:Caridina laoagensis
沖縄から東南アジア沿岸に生息。体長は4cmで丸味のあるフォルムが特徴的です。トゲナシヌマエビに似ているが額角の鋸歯で識別が可能になります。
以前は台湾から流通がありましたが、近年みられなくなりました。
※国産個体は流通はほぼありません。
ミナミヌマエビの仲間達
詳細が不明につき学名を下記の表記で統一させていただきます。
Neocaridina denticulata denticulata var.?
Neocaridina denticulata sinensis var.?
Neocaridina heteropoda var.?
シロミナミヌマエビ
クロミナミ・レッドヌマエビ・ゴールデン・ブルーの4色は、ミナミヌマエビの選別交配によって作出された改良品種になります。
飼育環境
水槽サイズ
ヤマトヌマエビ
飼育下での繁殖が難しいこと、個体が大きいことを踏まえ、単独飼育であれば30cmサイズから飼育可能です。
※30cm水槽で3~5匹、60cm水槽で5~10匹が目安です。
ミナミヌマエビ
繁殖力が非常に高いため、45cm水槽以上での飼育がオススメです。繁殖を考えなければ、小さいサイズの水槽での飼育も可能です。
※30cm水槽で10~15匹、60cm水槽で15~20匹が目安です。
飼育スペースは単体飼育または水草水槽の掃除役など、飼育環境から考えると良いでしょう。
フィルター
フィルター選びは、飼育環境に合わせて水槽のサイズに適したものを選ぶと良いでしょう。
水温・水質
ヤマトヌマエビ
水温20~25℃が適正水温ですが、もともと日本の河川にも生息しているため、低い水温にも耐性があります。凍結しなければ屋外飼育も可能です。
水質は中性~弱アルカリ性の水質を好みます。急激な水質変化には非常に弱いため、水換えや導入時には注意してください。
ミナミヌマエビ
水温20~24℃が適正温度で、ヤマトヌマエビと同じように低温にも耐性があります。
水質はヤマトヌマエビと異なり、弱酸性~中性を好みます。
ヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビともに言えることですが、適温や好む水質はあっても、きっちり合わせる必要はありません。ご自宅のアクアリウム環境に合わせて選ぶと良いでしょう。
底床(ソイル)
田砂・大磯砂・玉砂利・ソイルなど、飼育する環境で選ぶ方が多いのではないでしょうか。
選び方としては、甲殻類であるヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビの成長に最適な環境を作ることを考えると良いでしょう。
ヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビのNGアイテム
基本に沿って飼育していけば何を使用しても問題ないでしょう。
ただし、農薬に弱い点は考慮が必要です。水草や流木などの導入時はご注意ください。
チャームでは無農薬の国内栽培品の水草を販売しております。ご安心ください。
種類によっては、残留農薬処理済み品もございます。ご購入の際は注意ください。
組織培養も徹底した管理の下で行っています。他の無農薬の水草と同様に安心してご使用いただけます。
エサについて
ヤマトヌマエビもミナミヌマエビも水槽内の、水草や流木コケ、食料になりそうな水草・残餌の掃除をしてもらえるため、魚・水草などとの混泳の場合は餌やりの回数も少なく済みます。単独飼育では、2~3日に1回のペースで良いでしょう。
たくさんの匹数を飼育、繁殖をさせたい方もいらっしゃると思います。
その場合は、エビ用のタブレットなど栄養バランス、量を決めて1日に2回のペースであげると良いでしょう。
たくさんいるからと餌の量を多くすると、食べ残しで水が汚れて水質悪化につながります。
混泳
大人しい性格のため、混泳は可能です。同種であれば複数匹での飼育もできます。
ただ、肉食性の強い熱帯魚は小型種でも口に入ってしまう恐れがあり、混泳させる魚種には注意が必要です。
混泳OK
※口が小さく温厚な小型の魚・オトシンクルス・コリドラス・プレコ・小型ローチ系・同サイズのシュリンプとの混泳は可能です。
混泳NG
口が大きな魚・サイズ違いの大きなシュリンプなど、飼育個体に害を及ぼしかねない混泳は避けた方が良いでしょう。
シュリンプ同士の混泳
ヤマトヌマエビ
ミナミヌマエビ
※ヤマトヌマエビの方がサイズも大きく強く、テリトリーを奪われてしまいます。混泳はおすすめしません。
繁殖・抱卵(ハッチアウト)後の育成
ヤマトヌマエビ
飼育しているヤマトヌマエビが交接し、抱卵した場合の方法をご紹介します。
卵が発眼し始めたことを確認し、隔離水槽へ親個体を移動させます。
1.飼育水槽とは別に汽水(70%に薄めたもの)を入れた飼育水槽を準備します。
※例)容器2~3L・スポンジフィルター・モス付き流木・エアレーションなど。
2.抱卵した個体を準備した水槽へ移します。
※水合わせを忘れずに!
3.ふ化を確認した後、親個体を元の飼育水槽へ戻します。
※フィルターがあれば1~2週間は水を変える心配はないと思いますが、できれば1日少量の水換えを行うとよいです。
4.エサを与える。(インフゾリアを食べて育ちます)
5.ゾエアから稚エビへ変態後、淡水飼育へ移行します。
※20~30日前後で変態し脚を底に着けての生活を始めます。確認ができた飼育水の汽水の比重を徐々に下げ、淡水に近づけます。
急に淡水化させると浸透圧の関係で害を及ぼすので注意が必要です。
準備が諸々必要なことや成功例も非常に低いことから、一般飼育下での繁殖は難しいとされています。
ミナミヌマエビ
1.基本的な飼育設備を整える。
2.最適な水質・環境(水草・流木)などを用意する。
3.繁殖させたい品種をオス3とメス7の比率で準備をする(数が多いほど抱卵する個体確率を増やせるため)。
4.栄養価の高い餌を与える。
5.水温は22℃~25℃での飼育を維持する(20℃以下や高温では抱卵しなくなるため、温度帯の維持が必要です)。
6.水草を多く入れる(多ければ環境も落ち着き、餓死する確率も下がります)。
稚エビのサイズは約3~4mmととても小さいです。
水草に生えた苔やバクテリアを食べて成長するので餌を与える必要はありません。
ただし、水槽内に苔やバクテリアが少ない場合は原生生物の供給をする必要があります。
サテライトなどを使用しない場合、稚エビが大きくなるまでは親エビに人工飼料など与えるようにしましょう。
ヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビ用語集
ヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビの飼育において特に使われる専門用語をピックアップしました。
ヌマエビ…ヌマエビ科の甲殻類の総称。
ヤマト…ヤマトヌマエビの略称。
ミナミ…ミナミヌマエビの略称。
タンクメイト…メインの魚や水草に随伴して飼育する魚やエビ、貝その他の水生生物のこと。
pH…水素イオン指数、ピーエイチまたはペーハーと読みます。
pHショック… pHの異なる水質により起こる症状。
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